10代のうつ「かろうじて◯◯を乗り越えた子」は危うい?


人間関係が複雑化し、ストレスフルな現代の子どもたち。思春期は特に精神が不安定になり、うつ状態になるケースもある。親はどう気づけばいいか。何ができるのか。児童精神科医の猪子香代さんに話を聞いた。

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 現代社会は、さまざまな子どもへのストレス要因があります。たとえば、受験もうつ病の引き金になることがある。

 私が危ういと感じるのは、かろうじて受験を乗り越え合格した子たち。レベルの高い中高一貫校に合格した中1の男の子は、入学後に宿題ひとつできなくなって受診してきました。聞けば、すでに小6のときに憂鬱な気分が始まっていたとのこと。母親に心配をかけないよう、苦しい状態に陥っていても、言いだせなかったそうです。母親はうつ病だなんて思っていないから、本人が自信を取り戻すように、「もっと勉強しなさい」と励ましていました。

 私は、中学受験が悪いとは思っていません。ただ、親や周囲の大人は、「頑張れば成績が上がる」「上がらなかったら、あなたのせい」としか子どもが受け取れないような、狭い価値観を押しつけてしまいがちです。一つの価値観の枠の中に入れ込んでしまうと、やはり子どもは苦しい。

 子どもに「おかしいな」というサインが見られたら、まずはじっくり本人に話を聞くことですね。うつ病は、本人の様子からわかる病気ではなく、本人が自覚していることを聞いてわかる病気ですから。聞くときは、ニュートラルに「今、何をどんなふうに感じているの?」と。言葉少なめに、聞くだけでいいんです。

※AERA  2015年7月6日号より抜粋