摂食障害、潜在患者どう支援 気づかない・隠す傾向、治療環境づくり急務


摂食障害は、極端な食事制限や過度な摂取など食にまつわる行動を中心に問題が出てくる精神疾患だ。本人や家族も病気に気づかなかったり、隠したりして、適切な治療を受けないまま重症化するケースもある。一方、受け皿を増やすことが急務として、国もようやく支援に乗り出した。

 関東地方の女子高校生(16)は小学6年のとき、急に食が細くなった。中学受験で忙しく、友だち関係もうまくいっていなかった。近くの大学病院小児科で「摂食障害」と診断され、身長151センチで体重が30キロを切り、入院した。
 本人が治療に熱心になれないまま、退院した。本人は「病気ではない」と強調。勉強の合間の腹筋運動もやめなかった。スープやアイスのほか病院で紹介された流動食で栄養を取りながら勉強を続け志望校に合格。友人と出かけるようにもなり入院から数カ月後、体重は30キロ台に戻った。
 中学に入ると今度は目の色を変えて「何かない?」と食べ物を探すようになった。スナック菓子や菓子パンなどを食べこんだ後で、「食べること以外考えられなくなる」と不安がった。
 母(45)がインターネットで調べた情報をもとに親子で、東京女子医大女性生涯健康センターで摂食障害を診ている内科医の鈴木眞理さんの診察を受け始めた。家族会にも参加してじっくり病気と向き合った。学校に行けない時期もあったが、食べ方や量を調節できるようになり、元気に高校に通えるようになった。
 この高校生のように、ストレスや過労がきっかけとなり、摂食障害を発症するケースは少なくない。
 厚生労働省の患者調査(2013年)では、医療機関で摂食障害と診断された人は約1万2千人。ただ、病気という認識がない人や隠したがる人が多いのもこの病気の特徴で、調査から漏れている患者が多いと推測される。国立精神・神経医療研究センターのストレス研究室長、安藤哲也さんは「国内患者は50万人いてもおかしくない」とみる。
 患者の90%以上は女性だが、男性も増えている。また厚労省研究班の調査では、小学4年の発症など低年齢化も報告されている。

 ■回復に時間、重症化も


 摂食障害は、(1)低体重だが、患者にその認識がない神経性やせ症(2)大量かつ頻繁に食べた後で自ら吐くなどして体外に出す神経性過食症(3)過食はするが、嘔吐(おうと)や下剤の乱用はない過食性障害の三つに分類される。
 共通するのは太ることへの極端な恐怖や自己評価の低さなどといった傾向だ。
 「特効薬がなく、患者の性格や人間関係、生活環境も多様で、診察には時間がかかる」と、白梅学園大教授の西園マーハ文さん(精神科)は説明する。
 同センターの安藤さんによると、摂食障害の死亡率は自殺も含め5~10%で、精神疾患の中で最も高い。感染症や心不全などの合併症にかかり、救急で病院に運び込まれる人もいる。安藤さんは「患者の半数は回復に5年以上、2~3割は10年以上かかる」と話す。
 救急で運び込まれるなど、やせて低栄養状態が著しければ、まず入院し、生命の安全を確保するうえでも体重を増やす必要がある。鈴木さんは、「体重増加によるメリットを患者自身が実感すると、治療に前向きになる」という。
 ただ国内に専門施設はなく、熱心な医師が精神科や小児科、内科などで患者を引き受けているのが実態だ。初診の予約に数カ月待つことも少なくない。
 国は今年度初めて国立精神・神経医療研究センターを摂食障害全国基幹センターに指定。宮城、静岡、福岡に治療支援センターを置いた。全国基幹センター長でもある安藤さんは「地域の医療機関を中心に患者や家族を支え、学校や保健所とも連携するガイドライン作りに取り組みたい」と話す。(冨岡史穂)



朝日新聞社

最終更新:11月10日(火)11時30分



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