「9月病」が深刻化している。長い夏休みが明けて学校がはじまる9月は、「現実」に引き戻された子どもたちが「うつ病」のような症状にかかり、自殺するリスクが高まるというのだ。
そうしたなか、抗うつ薬のように副作用がなく、患者のからだの負担が少ないとされる「経頭蓋磁気刺激法」(TMS治療)が子どもの「うつ」症状を治す治療法として注目されている。
■現実との距離が遠ければ遠いほど、ふだんの生活に戻れなくなる
「9月病」は、夏休みボケで気分の切り替えがうまくいかないなどの状況が続くことで、心の余裕がなくなり、ため息が多くなったり、朝起きるのがつらかったり、やる気が出なかったりする「うつ」の症状が現れることをいう。子どもの場合、不登校になったり、ちょっとしたことでイライラしたりする。
「新宿ストレスクリニック」の渡邊真也統括院長は、「9月病は長い休みで生活リズムが乱れることをきっかけに、社会生活に戻れなくなってしまう症状です」と指摘。最近は、たとえばテーマパークや海外旅行などの非日常体験と、現実の生活とのギャップがあまりに大きい場合に、ふだんの生活に戻れなくなるケースが少なくないという。
また、季節の変わり目で、急激な温度変化にからだがついていけず、心身のバランスが崩れて、うつが発症しやすいとされる。
内閣府の「自殺対策白書 2015年版」によると、1972~2013年の42年間に自殺した子どもの総数は1万8048人で、これを日付別に合計したところ、最も多かったのは9月1日の131人だった。次いで4月11日の99人、4月8日が95人、9月2日94人、8月31日の92人と続いた。
夏休み中(7月下旬~8月上旬)は40人以下の日が多いが、8月20日以降は連日50人を超えていて、夏休みや春休みなどの長期休暇の終わりが近づくと、子どもの自殺者が増える傾向にあるのは明らかだ。
そうしたなか、脳に直接働きかけて「うつ」を治す「磁気刺激療法」(TMS治療)が注目されている。
「TMS治療」は、薬を使わないので副作用がないことや、外来治療で治すことができるといったメリットがある半面、日本では自由診療(保険適用外)のため、高額な治療費がかかるのが弱点。
現在、TMS治療を専門で行っている病院やクリニックの数が少なく、多くの場合は大学病院などのうつ病治療の臨床研究に、治験者として参加するしかないのが実情。それもあって、患者やその家族などにもあまり知られていないようだ。
実際のTMS治療は、歯医者のような診察台に横たわり、頭に磁気刺激を送る専用機器をつけて治療する。脳の背外側前頭前野(DLPFC)と呼ばれる、感情をコントロールする場所に磁気で刺激を与えてDLPFC機能を改善させ、深部にある感情をつかさどる扁桃体のコントロールができるようになり、症状が改善されると考えられている。脳の表面近くに刺激を与えるだけなので、脳へのダメージはない。
薬を使わないため、子どもへの薬による副作用を心配する家族にとっては安心できる。
さらに、そんなTMS治療が、最近はかなり身近になってきた。「高い」と思われていた治療費が値下がりして、「受診しやすくなった」というのだ。
国内最大級のTMS機器をそろえる「新宿ストレスクリニック」によると、これまでは自由診療ということもあり、1回30~40分の治療を1セット(30回)でおよそ180万円かかった。しかし、それが1回1万9800円、1セット59万4000円と、当初の約3分の1にまで安くなった。
安くできる背景には、TMSに使う医療機器の種類が増えて、価格が下がってきたことがある。それに伴い、治療費も値下がりしている。
クリニックでは、これまでの「ニューロスター」(米国製)に加えて、英国製の「マグスティムラピッドスクエア」と韓国製の「タマス」をそろえた。「最新機器は治療時間も短縮され、約15分で済みます。それにより、患者の治療にかかる負担が軽減されるほか、患者の希望どおりに治療スケジュールが組めるので、通院しやすくなりました」と説明。クリニックにとっても稼働率が上がり、治療できる患者数が増えるので、治療費も抑えられるようになるというわけだ。
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