40代後半から50代前半に、女性が迎える更年期。めまいや頭痛、ほてり、イライラなど、さまざまな症状が現れる。こうした不調を和らげるのに、寝る前10分間のストレッチが有効であることが、最新の研究で明らかになった。
意外? ストレッチ効果の実証は世界初
研究を行ったのは、公益財団法人明治安田厚生事業団 体力医学研究所の甲斐裕子主任研究員らのグループ。論文は北米更年期学会雑誌「Menopause」2016年8月号に掲載された。
これまで、ジョギングやエアロビクスなど中強度の運動が、更年期症状や抑うつを改善することは研究されてきたが、ストレッチなどの低強度の運動の効果を明らかにする研究はなかった。今回、世界で初めて実証された。
甲斐氏らは、ホットフラッシュ(顔のほてり)の症状がある女性が強い運動をすると、かえって症状を誘発してしまうケースがあることや、仕事や家事で忙しく、運動の時間をとることが難しい女性が多いことなどから、気軽にできるストレッチに着目。しかも「寝る前たったの10分間」というハードルの低さで、更年期症状と抑うつの改善効果があるかどうかを調べた。
研究グループは、何らかの更年期症状がある、働く女性40人(平均年齢51歳)を対象に介入研究を実施。3週間にわたり、20人には毎晩、ヨガのポーズを取り入れたストレッチを就寝直前に10分間行ってもらい、残りの20人には普段と同じ生活を続けてもらった。
その結果、ストレッチをした女性は、更年期症状にみられるほてり、動悸、冷えなどの「血管運動神経症状」、イライラ、不眠などの「精神神経症状」、疲れ、肩こり、腰痛などの「運動器症状」のいずれも改善され、これらを指数化した「簡易更年期指数」の合計は、正常レベルにまで下がった。さらに、抑うつ度にも有意な低下がみられた。
甲斐氏は、今回の研究の結果について「当初の予想以上の成果」と評価する。
「本研究からは、メカニズムまではわかりませんが、ストレッチが交感神経の働きを抑え、副交感神経の働きを高めるという報告があります。また、我々の研究では、寝る前のストレッチで寝つきがよくなることもわかっており、これらが影響したのではないかと考えています」
気軽に続けやすいことが大切
更年期とは、ひとことで言うと「閉経にともない女性ホルモンのバランスが乱れる時期」だ。女性は平均50歳で閉経を迎えるが、その前後5年間ほどの期間に卵巣から分泌される女性ホルモンが激減する。すると自律神経のバランスが乱れ、頭痛やめまい、ほてり、発汗、肩こりなどの身体的症状や、イライラ、抑うつ感、不眠などの精神的症状が生じる。
症状の改善には、ホルモン補充療法という治療法もあるが、抵抗のある人やホルモン補充療法はまだ、という人にとっては日常生活で取り組める軽減法は重要だ。食生活の見直しに加え、運動も大切だと言われるが、運動の習慣がない、あるいは時間の余裕がない女性にとって、ジョギングや水泳などはハードルが高い。
今回の研究で実施してもらったストレッチは、3週間、毎晩行う条件だったが、実際の平均は週に5.4日だった。大半の人がほぼ毎日行っていたのだから、忙しい人でも続けやすいということだろう。週に1、2回はサボっても効果があるのなら気が楽だ。
ストレッチプログラムは、ヨガのポーズを中心に構成されている。「英雄のポーズ」「鶴のポーズ」「子どものポーズ」「バッタのポーズ」「死者のポーズ」の5つのポーズに、寝た状態での「全身の伸び」を加えた一連の動作を10分間で行う。
甲斐氏によると、ヨガを取り入れたのには3つの理由がある。
1つは「効果を出すため」。寝つきをよくするには、体温を少し(0.5度以内)上昇させる必要がある。そこで、一般的なストレッチより少し強度の高いヨガを取り入れたという。2つ目は「続けやすさ」。「1回やってみて、気持ちがよくないと続かない」と考え、プログラム作成段階で、主に女性の意見を聞いて最適なポーズを探した。3つ目は「新規性」だ。女性に人気のあるヨガの要素を取り入れれば興味を持ってもらえる。ただし、ヨガそのものでは難しそうなイメージがあるので、ストレッチと組み合わせ、「誰にでも手軽にできるプログラム」をめざした。
ベストタイミングは「寝る直前」
ストレッチを行うタイミングも重要だ。
甲斐氏らが過去に、就寝1時間以上前にストレッチをやってもらい、調査したところ、肩こりや腰痛などの「運動器症状」以外に効果は見られなかったという。冷え やイライラ、不眠などの改善には、寝る直前に行うのがベストだ。
「今、更年期の症状に悩んでいる方はもちろん、これから更年期を迎える方にも、ぜひ寝る前の習慣にしていただきたい」と甲斐氏。
ストレッチプログラムの詳細を参考に、試してみてはいかがだろう。
(Aging Style)