うつ病は、大人だけのものと思っていたら大間違い。10歳を超えるとうつ病の患者は増え始め、最近は低年齢化も指摘されています。さらに厄介なのが、子どものうつ病は見逃されやすく、本人も保護者も気付かぬうちに悪化するケースが多いことです。横浜市の児童精神科・猪子メンタルクリニック院長の猪子香代先生に子どものうつ病について注意したいことをうかがいました。
「子どものうつ病」と聞いて、「子どももうつ病にかかるの?」と疑問に思われるかたが多いかもしれません。最近はメディアなどで子どものうつ病が取り上げられることもありますが、まだ十分に理解されているとは言い難い状況です。
児童精神科を専門とする私のクリニックにも、うつ病の子どもがたくさん訪れます。最初から保護者がうつ病を疑って連れてくる場合もありますが、診療を進める中でわかることも少なくありません。うつ病は、10歳を過ぎた頃から増え始め、10代の有病率は成人と大きく変わりません。データによってバラツキはありますが、子どものうつ病の有病率は3~8%とされています。「意外と多いな」と感じられたのではないでしょうか。
最近、うつ病の子どもは明らかに増加していると感じます。以前はうつ病と診断されていなかった症状が、うつ病と診断されるようになったことが理由の一つです。かつては思春期に特有の憂鬱な精神状態として見逃されていたものが、うつ病と診断されるケースが増えているのです。加えて、低年齢化も指摘されており、うつ病の子どもの絶対数が増加していることもうかがえます。
子どものうつ病が理解されにくい理由として、もともと思春期は精神的に不安定になりやすく、「うつ気分」を抱える子どもが多いことがあります。うつ気分は一過性の場合もありますが、長く続いて、不眠や食欲の減退、集中力の低下などをもたらし、学習や人間関係に影響が出ることもあります。このようになると、うつ病と診断されることが少なくありません。
さらに大人のうつ病とは、うつ気分の表現のしかたが異なることも理解されづらい理由です。一般にうつ病というと、悲観的な考え方になって意欲を失ってしまう姿をイメージするでしょう。子どもの場合も同様の症状はありますが、一方でイライラしたり怒りやすくなったりする姿も目立ち、「反抗期だから仕方ない」と捉えられてしまうことがあります。また、子ども自身、うつ病に対する知識が乏しく、自分の内面で起きている変化をうまく説明できないことも気付かれにくい要因です。
多くの場合、治療を受ければうつ病は治りますし、発症の要因となったストレスとの向き合い方も身に付けることができます。逆に放置すると症状は悪化し、勉強やクラブ活動がうまくいかなくなったり、家族や友人と良好な関係を保てなくなったりと、さまざまなところに影響が生じます。不登校や引きこもりを引き起こすケースも見られます。10代という大切な時期を有意義に過ごすためにも、早期に適切な治療を受けることが欠かせません。そのためにも、子どもがうつ病にかかるのは珍しくなく、誰にでも起こりうることだということをまずはご理解いただければと思います。
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